実家から出ること
私が一人暮らしを始めたのは24の時だった。
母親から25までに独立しろと言われていたのを真に受けて、不動産に一人で行って条件に合う部屋を探し、書類を父親に書いてもらって出ていった。
母親がそう言うに至る背景がある。
上げ膳据え膳で実家で暮らし、いつまでも何も出来ない子供扱い。そういう家を見てきたからこそ、自分はああはするまいと思ったそうだ。
私は実家で暮らしている頃、状況が動かない限り、かなり上げ膳据え膳を満喫させてもらった。
考え方が甘く、いつまでも子供をしていた。
親の束縛は強くなく、進学の際に意見を言ってきたことはない。好きなことをしなさいと、わりと放任主義だったと思う。
それでも地元を離れずずっと実家に居続けていたのは、やはり精神的な幼さからくるのではなかろうか。
親の言うことを真に受けて飛び出したのは、私の頭の中の甘えの部分を断ち切るいいきっかけになったと思っている。
そのまま実家に居続けていたら、今の私は存在しない。バカな意味で真面目で良かったと思う瞬間だ。
同じ生育環境にありながら、私の兄は高校卒業とともに進学で県外に出て、それから一度も帰ってこない。
今も盆正月に帰省すればいいほうだ。
兄は私と違って自立心が高いのだろう。実家に縛られず、囚われず、自らの行きたい方向へ飛び出していった。
時々、親が心配だから、と言いながら、一人暮らししたいなぁ…と愚痴るだけの人と話すことがある。
私からしてみればさっさと出ていけばいいのにと思う。しかし彼らは親が心配だから出れないよ~と言う。
家中の家事をして、メインとなっている人、助けている人。これはほんとに大変そうだなと同情する。家を出るタイミングを見失うと出ることができなくなるから。
しかも出たとしても帰ることがある。親思いの優しい子供だなと思う。私は薄情なので、何があろううと帰ろうと思わないけれど。
しかしいかがなものかと思うものに、心配という建前で、結局老いた親に上げ膳据え膳させている人。これは本当に、同情の余地がない。
いつだったか友人に紹介された男にこういう男がいた。
「うちの親は料理が焼くだけで、おいしくもない」
じゃあお前が作れよ。私は心の中で呟いた。
その男は私より少し年上だった。実家で上げ膳据え膳、そこから仕事に行く。正社員になると責任が増すから、ゆるく生きたいと言っていた。ちなみに登用制度はあるらしいが、色々と面倒だからとしないままらしい。
半分くらいは同意する気持ちはある。私も契約社員だから。けれども完全同意は出来ない。
チャンスがあるなら挑めばいいのに。そうすることで世界観が広がって、卑屈な態度を私に見せなくて済むのではないか?
そもそも初対面で、飲食店で、帽子を脱がずにそのままはどうかと思う。そういうところに育ちの悪さを感じた。
自立という言葉を知らぬまま育った、三文安の温室育ちだろうか。
また違う男がいる。
家で、自分のことは自分でする、料理も掃除も洗濯も。親との仲は悪い。兄弟ともよくない。だけどでない。
愚痴だけはもう本当に一人前で、そこまで愚痴るなら出ればいいのに。そうしたらストレス源から離れられるし、ほんとうの自由だし。本気で私はそう思っていた。
おそらくだが、彼は家を出る気がさらさらないのだろう。そもそも仲が悪いというのも実は半分くらい嘘なのではないだろうか…これは質の悪い口だけ男だ。
タイミングを失う前に、状況が許すなら、出られる時に出てしまえ。
縛り付ける親もどうかと思うが、自分が理由にする親や家族の心配は、出てしまっても心配するほどのことではなかったりする。
”いつまでもあると思うな親と金”という言葉があるように、いつかは子供は一人で放り出される。だから、できればなるべく早く自立するべきだ。
それは私の経験からくるものであるけれど、最後の機会である20代のうちに飛び出せなければ、よほどのことがない限り色々なものが重しとなって、更に動けなくなる。
とりあえず迷う気持ちがあるなら、近所でいいから出てしまえばいい。
なにも遠距離に行かなくても、徒歩一分の近場でも十分なのだ。親の言う心配も、自分の思う心配も大概大丈夫だから。
お金の心配も、身の丈にあった暮らしをすればいい。それができないのはかなり幼稚だと思う。
もちろん発達の問題で難しい人はいると思うけれど、そうでないのに出来ないのは甘えだ。
遊びに使えない?お金が貯まらない?
やり方が間違っているのではないでしょうか。今一度、見直しましょう。