動き出した時にはすでに遅い
私が結婚したのは31歳の時。夫と出会ったのも31歳の時である。
漠然と、結婚は当たり前のようにできるものだと考えていた。
私は決して明るい青春時代を送っておらず、20代の半ばまで男性と付き合ったことがなかった。
しかも当時の趣味であるゲーム、二次創作などが楽しくて仕方なく、引きこもっていても決して不幸ではなかった。好きなものつながりで知り合った友人がいたからだ。
なのにどうして結婚は当たり前のようにできるのだと思っていたのだろう。
並以下の容姿、オタク、低収入、しかも契約社員。一人暮らしはしていたけれど、マイナスではないところなんて、太っていないくらい。
はじめて男性と付き合ったのは20代の半ばだが、長く続かなかった。原因は恋愛がよくわかっていなかったこと、相手を心から好きになれなかったこと。
失礼な話であるが、告白されたから付き合ってみようかなと思った。それだけの人だった。
28の歳に付き合っていた彼と1年も持たずに別れた。原因はすれちがいか私のわがままか。少なくとも当時の彼にも思いやる気持ちがなかったのも確かだと思う。あくまで私目線であるが。
30の時に付き合った彼がある意味転機だったと思う。
その人はほどほどに距離のある場所に住んでいる人だったが、高校時代の知人が開いてくれた合コンで知り合った。
並み以下の容姿のくせして、顔が好みじゃないと嫌だ、体型が好みじゃないと嫌だとこだわっていた。なぜなら彼に出会うまでに紹介された数人が異性としての魅力を全く感じない相手だったからである。私はこの程度のレベルしか紹介されないんだなと落ち込んだ。今思うにその程度の人間であると評価されるに値する意味はわかるのだが。
話は戻り、その彼には問題がいくつもあった。当時の私に突っ込みたい、絶対に幸せになれないよと。
詳しい問題は省くとして、楽しい時間は彼からたくさん与えてもらった。恋愛とはこういうものなのかと学習できた期間である。
しかし問題のせいで私は決して最高に幸せではなかった。結局メールのやり取りで完全に切られ、私はふられてしまったのである。
これもまた彼に思いやりがなく、私にも思いやりと心の余裕がなかった、それに尽きる。
悲しかった。そして腹立たしくなった。最後にあんな爆弾抱えている人と別れられてよかった、色々教えてくれてむしろ感謝しているとさえ思えた。そこへ至る期間は4ヶ月くらいかかったけれど、無駄な時間ではなかった。
そして現在の夫である人と出会うまでに、初めて行った婚活パーティーで知り合った男性が1人いたが、数ヶ月で破局。これもまたふられてしまった。
その人にふられ、落ち込んでいる暇はなかった。私はその時31手前。結婚がしたかった。
私が結婚したい理由は、普通が欲しかったからだ。
ついでに精神的な穴を埋めるため。
当たり前のように恋愛し、当たり前のように結婚し、当たり前のように家族を作り上げる。
そんな当たり前が、普通にできると思っていたからだ。だが違う、普通とは普通以上に難しいことであるということを、私は31歳手前でようやく知ったのだ。
完全な出遅れである。学生時代の友人は少ないが、半分は結婚し子供をもうけ、半分は独身。私はその独身でいられる自信が全くなかった。
32歳までに結果が出なかったら、結婚相談所に入会しよう。そう決めて、独身の友人とともに出られる婚活パーティーに行った。もちろん一人でも行った。誕生日をはさみ2ヶ月、行けるパーティーに全て申込んだ。
正直、疲れた。努めて明るく振る舞うことも、頑張る自分も、帰宅後の空虚な時間も。なにもかもが疲労の原因だった。
しかし足を止める暇はない。私は結婚がしたい。
パーティーの成果が芳しくなく、私は大好きなパソコンでネットサーフィンをしていた。これが唯一の楽しみだった。
なんとなく見ていたページの広告にあった、大手ポータルサイトのお見合いではない恋愛婚活、以前使用したことがある、ネットでのマッチング。
いわゆる出会い系に登録した。
お見合いではなかった理由は、単純に費用が安かったからだ。期間限定のつもりで、成果などないと思って、暇つぶしに登録をした。
誕生日、仕事を終えてため息をつきながら1人でパソコンの前に座った。メッセージが着いていた。
その人こそ、現在の夫だ。
夫となる男性は、短文ばかり送ってくる他の人とは違った。自らを一生懸命売り込んできたのだ。私は単純な人間なので、とても興味が湧いた。
実際に会うことになったのは、メッセージを貰ってから2週間後のことだ。
私が、婚活するにあたって決めていた譲れない条件は、一人暮らしができる程度稼いで、痩身で、借金がなく、特別宗教をしていないこと。
第一印象はばっちりだった。そして付き合っていく中から現在で確認できたが、メール上、口先だけではなく、本当に条件そのままだった。
ありがたいことに彼も私を気に入ってくれ、それからトントン拍子につきあい始め、付き合って3ヶ月後には結婚の話が出た。
互いの両親に会いに行き、両家顔合わせをし、付き合って半年後には籍を入れた。
結婚とは縁である。
だが私は、私にできる最大限の努力をしたからこその結果でもあると思っている。
私の初動は明らかに遅かった。動き出したときにはすでに遅かった。
しかし、動き続け、踏ん張ったからこそ得られたのだと、私は信じている。
動くことに、挫折することに、意味のないことはない。